幸せな風景

 引越し後、初めて娘の新居にお邪魔した。彼女にとっては、大学を出て一人暮らしを始めて以来、四度目の引越し。これまでは小さなワンルームに住んでいたが、今度は結婚&妊娠で家族が増えることもあり、3LDKの部屋を選んだ。

 料理好きな娘は、なにより台所が広くなったことを喜んでいた。今日も、部屋の片付けを手伝ったお礼に、自慢の腕をふるって夕飯を用意してくれるという。せっかくなので、その言葉に甘えることにした。

 せっせと料理する娘の姿を見ていると、ふと彼女の将来の姿が頭の中に浮かんだ。

 学校から帰ってきた娘の子供が、カウンターに座って「ねぇねぇ、お母さん。聞いてよ。今日こんなことがあってさ…」と話しかける。娘は「へえ、そうなの」と言いながら、料理の手を休めることなく話を聞いている。そのうち、キッチンからいい匂いが漂ってくる。その匂いで食欲を刺激された子供は、「お腹すいた〜!」と騒ぐ。「もう直ぐだから、先に宿題済ませなさい」と娘が笑う…。と、まぁ、そんなありふれた風景だ。

 私は、その風景を思い浮かべながら、ちょっと懐かしい気持ちになった。それは、私が母親の料理を見ていた子供の頃の風景と似ている。また、私が母だった頃、娘が台所に来て料理する私を見ていた時の風景とも似ている。登場人物は違っているが、その風景を思い出すとき、ふと感じる幸せな気持ちは同じだ。そして今度は、娘がその風景の中の母親になっていく。ちょっと考えると不思議なことのように思えるが、きっとこれが人の営みというものなのだろう。