デジタルだけどアナログのよさを持つ10年選手(CNET「お気に入りガジェットバトン」より)

年々失われゆく記憶力をカバーするには

 わたしにとっての今年最大のテーマ、それは「アンチエイジング」。といっても、スキンケアだとかデトックスの類ではない。寄る年波に勝てず年々衰えていくのは、なにも容姿ばかりではないのだ。

 たとえば通勤電車の中、つり革につかまりながら外の景色を見ているとき、ふとすばらしいアイデアが浮かんだとしよう。それも、そんじょそこらの思いつきではない。「おお! 私ってば天才!」と、思わず自分を褒め讃えてしまうほどのアイデアだ。そのとき、あなただったらどうするだろう。会社に着くまでそのアイデアを覚えておいて、デスクについた後でノートに書き留めるだろうか。残念ながら、わたしにはそれができない。なぜなら、それまでアイデアを覚えておく自信がないからだ。

 若い頃は、そうでもなかった。覚えておきたいことはきちんと頭の中にあり、必要に応じて引き出すことができた(と、思う)。しかし悲しいかな、年を追うごとに記憶力は確実に衰えていった。これこそ、わたしにとって最も切実な「アンチエイジング」問題。加齢とともに失われていく記憶力をカバーすることができなければ、仕事を続けることすら難しくなってしまう。

自分の使い方にあった手帳を見つけるために

 この課題をクリアすべく、私は記憶をサポートするためのツールを探し始めた。まず思いつくのは、メモ帳だ。できれば、いつでも身につけて持ち歩き、すぐに書き込めるサイズがいい。インターネットのクチコミ情報を調べてみると、どうやら「ロディア」というブランドのメモ帳がいいらしい。さっそく No.11と皮製の専用カバー、短いペンを購入した。その後、しばらくカバンの外ポケットにいれて持ち歩いてみたが、結論から言うとあまり使うことはなかった。ロディアのメモは、基本的に「保存する」ためのものではない。メモが必要なくなったら、ミシン目で切り取って捨てるようになっている。しかし私は、メモを捨てるのが嫌だった。自分が書いたものに執着する性格なのか、なんだかもったいない気がしてしまうのだ。

 ロディアの次に買ったのが、これもクチコミで人気が高いモレスキンの手帳だった。モレスキンにはゴムのベルトがついていて、中にいろいろ貼り付けても落ちないようになっている。これにポストイットを貼り付け、ゴムで綴じて携帯することにした。これなら、とっさのメモはポストイットに書き込めばいいし、そのメモを覚えておきたい間はモレスキンに貼り付けて持ち歩けばいい。用がなくなったら、手帳本体に転記してポストイットだけ捨てればいい。実際、この運用方法は大変うまくいった。今も、毎日このメモ帳を持ち歩いている。会社にいるときは机の上に広げ、電話で用件を聞いたらすぐにポストイットに書き込み、手帳に貼っておく。その用事が済んだら手帳に書き込み、ポストイットを剥がして捨てる。これがなかなか効率がよく、現時点ではうまく運用できているようだ。

場所を選ばずメモできるモバイル端末とは

 しかしこのすばらしい方法にも、欠点はある。メモを手にもって書き込むには、それなりの環境が必要だ。たとえば最初の例だが、電車の中で思いついたアイデアをポストイットに書き込むというのは、事実上難しい。なぜなら、電車は揺れるからだ。揺れる電車の中でペンを使って文字を書くのは、困難というより不可能に近い。百歩譲ってどうにか書き込めたとしても、後で見て判別できる文字ではないはずだ。

 このとき役立つのは、HP100LX。もう10年以上も前のMS-DOS搭載端末だが、私はこれにVZエディタを入れ、原稿執筆や取材メモ用端末として今も日常的に使っている。重さは約300gで、ギリギリ片手で持てるサイズ(15.5cm×8cm×2.5cm)。フルキーボードがついているので、立ったままでも両手の親指を使って快適に文字入力できる。電源を入れればすぐに画面が表示されるので、パソコンのように起動を待つ必要もない。これなら、揺れる電車の中でも好きなだけメモできる。ジーパンの後ろポケットに入っているHP100LXを片手で取り出し、電源をいれると同時にキーボードでささっと文字を入力したら、そのままジーパンのポケットに戻せばいいのだ。電源はオートで切れるようになっているし、次に電源をいれたときには前回と同じ画面がすぐに表示されるから、セーブする必要もない(しかしちょっとしたトラブルでデータが消えることもあるので、こまめにセーブした方が安全)。

 このHP100LXがあれば、電車の中でも、台所で料理しているときも、外で買い物しているときも、好きなタイミングでメモできる。お風呂の中でよいアイデアが浮かぶというのはアルキメデス時代からのお約束だが、HP100LXをジップロックに入れて持ち込めば、お風呂の中でもメモできる。実際わたしはそれを何度もやってみたが、いまだ問題なく動いている。なんともタフな端末なのだ。

 ぱっと取り出し、ささっと書いて元に戻すという一連の作業は、紙の手帳にメモするのと大変よく似ている。デジタルながらアナログの良さも兼ね備えているHP100LXは、わたしにとって最強のメモ端末であり、その地位はこの10年間揺らぐことはなかった。おそらく次の10年も、彼は変わらず王者で居続けるだろうと思う。そう、加齢によって私の目がすっかり老眼になってしまわない限りは。

(2007年9月)