いま、一番好きな作家

 ここのところ、とある作家に夢中だ。手元には、彼女の作品がまだ2作しかない。先日、ようやく一作を読み終えたばかりだ。しかし、もう一作に手をつけてしまうと、もう彼女の新作が読めなくなる。そんな訳で、いまだにその作品には手を出せずにいる。

 実は、彼女の本はまだ、どこからも出版されていない。つまり、素人作家さんだ。偶然、彼女のサイトを覗いたことがあった。そのとき、いくつか短編を読み、心惹かれたので「電子書籍に興味はありませんか?」とメールした。その後しばらく返事を待ったが、反応がなかったので、それっきり忘れていた。ある日、見知らぬアドレスからメールが届いた。その内容を見て、ああ、あのときメールした相手だと思い出した。彼女のメールには、「電子書籍に興味がある。以前、書いた長編があるので、ぜひ読んでもらいたい」とあった。正直、電子書籍に長編はむかないと思っていたので、あまり気乗りはしなかったが、せっかくのお申し出なので読ませていただくことにした。

 それがちょうど年末年始の忙しい時期だったので、なかなかじっくり読むこともできず、前半を斜め読みしただけの状態だったが、印象深いシーンがいくつかあり、「これはもしかすると」という予感があった。年明けの繁忙期が一段落した頃、ようやく腰を据えて読み始めたが、読み進めるにつれ、どんどんストーリーに引き込まれていった。半ばを過ぎた頃からは、もう手をとめることができなくなり、文字通り「寝食を忘れて」読みふけった。ここまで物語に夢中になったのは、本当に久しぶりだった。

 最後のページを読み終えたあと、すぐに彼女にメールをした。
「非常に素晴らしい作品で、深い感銘を受けております。正直、なぜこれまでこの作品が書籍化されなかったのか、不思議です」
 そして、なんとしてもこの作品を世に出したいということ、できれば紙の書籍で出版したいので、出版社に営業をかけさせていただきたいと申し出た。あまりにも唐突な申し出で驚かせてしまうかと思ったが、どうしても彼女にこの気持を伝えておきたかった。そして彼女は、その申し出を快よく受け入れてくれた。

 それと同時に、これまで編集者として仕事をしていたが、昨年秋にリタイアをした知人に宛てて、この原稿をメールした。自分だけの意見だと心もとないような気がして、彼の意見が聞きたかったからだ。彼は、昨日その原稿を受け取り、プリントアウトして読んだとのこと。途中、オリンピックの結果が気になったが、それよりも「この原稿の魅力のほうが勝った」と高く評価してくれた。彼の意見は、「一番この作品にふさわしい形を模索し、ぜひ出版したい」とのことだった。そして、「ぜひこの作品のサポーターになってほしい」という私のワガママにも応えてくれるとのこと。本当に心強く、ありがたいことだと思った。

 さてさて、これからどうしようか。ただでさえ、不況の影響をもろに受けている出版業界、有名な作家すら新刊を出すのが難しいという状況だ。こうした中、果たしてまったく無名の作家を売り込んでいけるものなのだろうか。正直、不安はいっぱいだ。しかし、こうして私の手の中に名作があり、その運命を委ねられた今、なにがなんでもなんとかするしかない。ほんのちょっと、あまりにも無謀な挑戦だという気もするが、ここは肝を据えて取り組んでみようと思う。